オーストリア散策エピソードNo.051-100 > No.092
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神出鬼没のノイジードラー湖
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ノイジードラー湖
ノイジードラー湖

オーストリアには2つの大きな湖があります。ひとつはドイツやスイスにまたがる西部ファオアールベルク州のボーデン湖。もうひとつは東のハンガリーとの国境のところにあるブルゲンラント州のノイジードラー湖です。

ボーデン湖は面積が250平方キロメートル(琵琶湖の2/3くらい)で、水深は250m。一方、ノイジードラー湖のほうは面積320平方キロメートル(琵琶湖と同じくらい)で水深はわずか1.5mです。あまりに浅いので夏の水温は25度〜30度にもなるといいますが、塩分を含んだ水と周辺の景観がちょっと海っぽいということで、「ウィーン子の海」という愛称もあるそうです。

しかし、ここでひとつ疑問が。水深250mのボーデン湖ならちょっとやそっと水位が下がっても湖の面積に影響は軽微と思いますが、ノイジードラー湖のほうは少し水位が変わるだけで面積が大変動するはずです。だから、地図に載っているノイジードラー湖の形なんてけっこういいかげんな可能性が高いんじゃないでしょうか?

そこでさっそく現地のサイトを調べてみたところ、その実態は面積が変わるどころのレベルじゃありませんでした。もっとすごいです。過去最大のときは琵琶湖の2倍弱、そして最小時の面積はゼロでした!

ノイジードラー湖が地上に現われたのは紀元前16,000年〜紀元前12,000年頃とされています。で、オーストリアの文献に初登場したのはけっこう遅くて1074年のことでした。「Stagnum Ferteu」という名(意味はわからないけど、たぶんラテン語で沼か湖を表す名)で記載されています。そのあとこの湖は1096年に「沼(palus)」、1217年には「湖(lacus)」と、大きさに応じて呼び方も変っています。湖と呼ばれていた13世紀には、そのほとりのルスト(Rust)とイルモイヒ(Illmeuch)の町に定期船が行き交っていたようですよ。が、1318年には湖が部分的に干上がってゆき、その6年後には「川(flumen)」なんて呼ばれるハメになってました。

15世紀になるとノイジードラー湖の水位は再び上がってゆきます。そして1501年に歴史家のJohannes Turmair(通称Aventinus)が湖の大きさを測ったら、長さ45,000歩(1歩=たぶん70cmくらい)、幅15,000歩、周囲100,000歩になったそうです。また別な調査によると、1520年のノイジードラー湖の面積は329平方キロメートルで、現在とほぼ同じだったといいます。

ところが1693年〜1728年には、雨の量が多かったにもかかわらず、またノイジードラー湖の水位がショボくなってきました。1736年にはある製本工がその水位をバカにするあまり、「この湖、どこででも歩いて渡れるほうに一票!」という賭けをして勝ったという話しも残っています。さらにその賭けから数年後の1740年〜1742年には、この湖は儚く干上がっていますよ。

しかし、ここからノイジードラー湖は反撃に出ます。干上がり最終年の1742年から再び水が流入してきて、1768年には逆に面積515平方キロメートルの大湖沼に躍進。今の1.5倍以上の大きさになりました。その後の水量も10年以上にわたって増えていったそうです。

そのあとのノイジードラー湖といったら、大きくなったり小さくなったりとますます好き放題でした。1811年〜1813年は完全に干上がって面積ゼロ。ところがそのすぐあと怒涛のように水が増え、1838年の面積は356平方キロメートル。で、1865年〜1871年は根性なくほとんど干からびた状態に逆戻り。で、1872年には水が帰ってきて、1878年の水深は今の2倍の3mにもなったものの、1909年の水深はわずか60cmに逆戻りで、1924年には面積も200平方キロメートルに後退していました。今は長さ36km、幅7km〜15kmといいますが、ホントはどうなんでしょうね?

ところで、こうして痩せたり太ったりを繰り返すノイジードラー湖に対して、オーストリアやハンガリーの人々は歴史的に「干拓」を何度か試みていました。しかし、度重なる変化を経ながらも、この湖の周りには独特の景観と豊かな生態系ができてゆきます。そしていつしか狩猟者や環境保護団体などが干拓に反対するようになり、政府も「湖の規模を安定化させるほうにしよう」と方針を変えてゆきました。その甲斐あってか、ノイジードラー湖は2001年から世界遺産にも登録されていますよ。なにはともあれ、よかったですね。

◆参考資料
1. Burgenlaendischer Yacht Klub - Revierinformation Neusiedler See
http://byc.at/index.php?c1=3&c2=62
2. Neusiedler See - Daten ueber den See
http://home.schule.at/teaching/teaching/Daten%20%C3%BCber%20den%20Neusiedler%20See.htm
3. Der See aktuell - Der flache See, das weite Land
http://www.bnet.at/dersee/aktuell.htm



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