オーストリア散策書棚 > No.30
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Der Letzte muss angefangen sein
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Der Letzte muss angefangen sein


出版元 Verein Schloss
Trautenfels
発行 1990年(初版)
著者 Doris Sauer 体裁 20.9cm×20.0cm
ページ数 60ページ


目次

虱たかり娘 / 黒い料理女はいるか? / リンガ・リンガ・レイハ / 皇帝の舞踏会 / ハーブの商い / 質草解消 / ハム切り / 茶飲み話し / 黄金の小籠 / 地下倉の魔女 / ハサミ研ぎ / 盗賊たちとおまわりさん / マイスター修行の足跳び / どこへご旅行? / お国のボール戦線 / イブの子供は何人? / クネーデルに飛び乗って天までケンケン / 手仕事の助言 / 小さな正方形 / こっちに緑あっちに緑 / 天まで昇れ / 蕪抜き / 像投げ / ティチュケルル(オーストリア版の羽子板風遊び) / 仕立て屋さん、ハサミを貸して! / 天邪鬼 / イナフェーのお方 / シリング探し / 5回の練習 / 時計売り / オーストリア風ドッジボール / 青実弾き / 指輪よ彷徨え / ローデン売り / 指輪探し / カプチン修道士のお遊び / 黒い小人のハンカチ / 山の牡牛 / 犬売り / 狐君、何掘ってるの? / 鳥の囁き / グルグル回ってフーラフラ / 泥棒裁判 / お天気魔女の婆さん / 橋遊び / 時計 / 目の見えない鼠 / ケンケン靴泥棒 / 目隠し座り椅子当て / ナハトタッペルル

**注)上記の遊びのタイトルには意味不明なオーストリア弁のものもあったため、一部には遊びのルールをヒントに私のほうで勝手に意訳したものが含まれます。その中には、私の勘がハズれて見当違いの訳語になっているものもあるかも知れません。



ひとこと


今回の本はエピソードのNo.133でご紹介したオーストリアのシュタイアーマルク州に伝わる子供の遊びを55点紹介した1冊です。本のタイトルは日本語にすると「最後のヤツを捕まえろ」(オーストリアの遊びの名前のひとつ)で、初版は1990年。しかしあまりにも内容がマニアックなせいか、発行から16年を経た2006年9月の時点でも、改訂や増版が行われた形跡は見当たりません。ちゃんと売れてるんでしょうか?    

この本の中の写真には、裸足の子供たちばかりの白黒写真から小ぎれいな服装の子供たちが集うカラー写真までいろいろありますから、必ずしもすべてが現代まで伝わっている遊びとは考えられません。しかし、上の目次にある遊びのタイトルを見ていると、やや古いオーストリアの日常生活の風景がよく伝わってきて、これはちょっと面白いですね。    

ところで、ドイツの作家であるジャン・パウルの「陽気なヴッツ先生」という本には、「彼(ヴッツ先生)は子供のころすでにいささか子供じみていた」という一文があります。そしてそれに続いて、「大人っぽい遊びとは大人の真似をすることで、子供っぽい遊びとは動物の猿まねをすることである」と書いてあり、「子供の頃のヴッツ先生はどうみても兎や雉鳩、熊、馬だった」と書いてありました。その観点から見ると、この本に載っている遊びの大半は大人っぽい遊びといえそうですね。猿やヤギの真似といった遊びは見当たらず、大人の仕事や宗教をモチーフにした遊びが多いですから。    

こうなった理由として、昔のまだ貧しかった時代には、子供が早くから家の働き手にならなくてはいけなかったということが考えられますね。遊びを通じて、小さな頃から大人のすることの擬似体験を積んでおく必要があったのでしょう。また、今の日本で「●●ごっこ」といった遊びが廃れてもっと娯楽志向のテレビゲームが流行しているのは、大人になって社会に出るまでの準備期間がすごく長くなったためとも言えそうですね。で、20歳を過ぎて「●●ごっこ」では情けないので、これが「インターンシップ」に名を変えたのかも。    

おしまいに余談ですが、この本に載っている遊びのタイトルの中には、原語をそのまま訳すとムチャクチャな意味や大袈裟な意味になるものもあります。たとえば「豚小屋遊び」の鬼役は原語だと「Sautreiber」というのですが、これはオーストリア弁で「スケベ野郎」という意味にもなります。また、「盗賊たちとおまわりさん」もより正確に訳すなら「盗賊たちと帝国地方警察官」となって、けっこう時代を感じさせてくれます。    



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