オーストリア散策エピソード > No.133
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オーストリアの古い子供の遊び
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日本に「かごめかごめ」や「だるまさんが転んだ」があるように、オーストリアにもモノのない時代の素朴な子供遊びというのがあります。今でもそうした遊びが続いているのかどうかは知りませんけどね。

今日はシュタイアーマルク州に伝わる古い子供の遊びの中から、2つをご紹介しましょう。ひとつは「Lausige Dirne」といって、日本語に直訳するなら「虱たかり娘」といったところ。しかしここではもっと雰囲気を出すために、「ホンダラ娘」と呼んでおきましょう。そしてもうひとつは、「Der Letzte muss angefangen sein」といい、日本語にすると「最後の1人を捕まえろ」となります。    

ではまず、「ホンダラ娘」から。この遊びの配役は、ホンダラ娘1人、農家のおかみさん1人、農家の子供たち多数です。で、まずはホンダラ娘が農家を訪れて、下の写真のようにタリラリランといった感じで、「ツィッケルル、ツァッケルル、お手伝い娘はいらんかね?」といいます。が、おかみさんは「そったら変な娘はいらねえだ!」と剣もほろろにホンダラ娘を追い返します。しかしホンダラ娘も負けてはいません。このあと2回もやってきて、「ツィッケルル、ツァッケルル、お手伝い娘はいらんかね?」としつこくいいます。もちろんおかみさんは、「そったら変な娘はいらねえだ!」と拒絶し続けますけどね。

ホンダラ娘

そこでホンダラ娘はマトモ娘に変身、性懲りもなくまたやってきて、「ツィッケルル、ツァッケルル、お手伝い娘はいらんかね?」と言います。するとこれを見たおかみさんは気を取り直し、「うん、いるだいるだ、ちゃんと料理ができる娘ならいるだ」と答えてホンダラ娘を雇います。

で、ホンダラ娘はさっそく子供たちへの料理を命じられるのですが、そこで彼女が作ったのは、肥やしのスープ(たぶんウンコ味)、ヒキガエルの料理、卵の殻のサラダなどといったロクでもないものばかり。おかげで子供たちは大迷惑をして、おかみさんに「ひでーものを食わされただ!」と言いつけます。で、頭にきたおかみさんは「月に代わってお仕置きよ!」とホンダラ娘をぶちのめします。    

そんなわけでホンダラ娘はマトモな料理をするために野菜畑にゆくことになります。で、おかみさんもやっと満足し、ホンダラ娘に「お駄賃は何にしようかね?」と聞きます。すると娘は、「深皿いっぱいの虱がいいだ」と言って、突然走ってそこを逃亡。これを見たおかみさんと子供たちはそのホンダラ娘を捕まえに、一斉に走り出します。で、ホンダラ娘が捕まったらゲームオーバーというわけです。日本の鬼ごっこと違って、たった1人の逃げ役を残りの子供が全員で寄ってたかって追いかけるところは、なんだか壮絶でもありますが。それと、たかだか鬼ごっこをするのにこれだけ前置きが長いといのは、どこかオーストリアらしいという気がしますね。    

もちろんオーストリアにも、1人の鬼が多数の子供たちを追いかける鬼ごっこだってあります。私は留学中にこれで散々走らされましたから。しかもその鬼ごっこはかくれんぼとセットになっていて、鬼の負担たるや相当なものです。やっぱりやるんなら鬼ごっことかくれんぼどっちかだけに絞りましょう。    

そうそう、この遊びに出てくる肥やしのスープや虱いっぱいの深皿ってすごくお下品系ですけど、日本の表向き格調の高い「だるまさんが転んだ」だって、京都では「坊さんが屁をこいた。匂いだら臭かった。」となったりしています。たぶんこういうのが外国に紹介されることはないでしょうけど、リアルの子供の遊びって、ホントはこんな感じのほうが自然かも知れませんね。    

さて、お次にご紹介する「Der letzte muss angefangen sein.(最後のヤツを捕えろ)」は、下の写真のようにして遊びます。これ、どこかで見たことがありませんか?そうです、この遊びは日本の「通りゃんせ」と同じなんですよ。どこの国も考えることは変わらないんですね。

最後のヤツを捕まえろ    

もっとも、オーストリアは日本からだいぶ離れていますから、「通りゃんせ」の歌詞も内容は大きく異なります。日本の「通りゃんせ」はは天神様の小道の関所という設定になっていますね。しかしオーストリアの「通りゃんせ」の舞台は壊れた橋です。その歌詞は「橋を渡ろう! でも橋は壊れている。橋をまた作ろう!何で作る?ザクザクの黄金と立派な石で!さあ、渡るぞ!最後のヤツは捕まえろ!」となっています。    

そうそう、せっかくなので、そのメロディーの簡単なMIDIを作ってみました。興味のある方はこちらをクリックしてご視聴ください。また、実際にこの遊びをしてみたいという暇な方のために、日本語の歌詞(メロディーの関係で多少省略あり)のついた楽譜を下に載せておきますね。

日本語の歌詞    

余談ですけど、私が子供のときやってた「通りゃんせ」は日本の一般的なものと違って、「ロンドン橋落ちる」を歌っていたのですが、これは八戸の内丸というご町内だけのことなんでしょうか?それとも、イギリスの子供たちも「ロンドン橋落ちる」で「通りゃんせ」をやってて、八戸だけそれがロンドンから直輸入されたんでしょうか?(←まさかそんなことはないでしょうけど)    

◆参考文献:
Der letzte muss angefangen sein

著者 Doris Sauer、 出版 Verein Schloss Trautenfels (1990年初版)



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