オーストリア散策エピソードNo.001-050 > No.037
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ローストチキンの国家紋章が誕生?
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オーストリアの紋章
オーストリアの紋章

現在のオーストリアの紋章は、鎌とハンマーを持ち、鎖から放たれた黒鷲です。しかし、この紋章はずっと昔からこうだったわけではなく、途中で数々の変遷を経ています。上に示した絵の紋章になったのは第二次世界大戦と連合国による占領時代を経てオーストリアが独立した1955年のことでした。

それからしばらくの間、オーストリアは西側諸国と東側諸国の掛け橋になる中立国として、それなりの存在意義をもち続けました。しかし、鉄のカーテンが崩壊すると人や情報の流れが必ずしもウィーンを通る必要はなくなり、オーストリアは自国の存在意義を改めて問わなくてはいけなくなりました。

そこで1992年1月にこの国で「紋章を変えてはどうか?」という議論が起こりました。まず、ウィーンクラブの指導者であるペーター=ピルツは「鷲は戦争の象徴だから、この強盗鳥を平和のシンボルである鳩に変えてしまおう」と言います。一方、極右自由党の党首イェルク=ハイダーは「鷲が足にもつ鎌とハンマーは別に共産主義の象徴というわけでもなさそうだから、そのままでいいでしょう」とヤル気のない一言。すると当時の大統領候補のひとりだったロベルト=ユンクが「鳩の足にソーセージと預金通帳でもつけたらどうだ」と悪乗りしました。これでキレたピルツは「上等じゃないか!それなら鳩もやめてローストチキンだ!これなら足に何か持たせる必要もないぜ」と捨てゼリフを吐きます。さらに、自由党書記長のヴァルター=マインベルガーは「紋章変更なんて予算に余裕はあるのか?」という覚めた一言で冷や水を浴びせる始末に。ついに事態は収拾不能に陥り、議長のフランツ=フロースが「もうやめい!」と言って、即座に議論は停止となりました。

これを面白がった風刺漫画家イロニムスは大サービスで下記のような独自案を5つも作ってDie Presse紙に掲載、ドタバタ議論に追い討ちを掛けました。さすがにこれでみんなハカハバカしくなったのか、その後オーストリアの紋章が本気で変更される気配は起こらなかったようですね。おかげで黒鷲は今も健在、元気に鎌とハンマーを抱え続けています。

新しいオーストリアの紋章案
イロニムス作の国家紋章案。左から、食の国、スポーツの国、緑の国、飲酒の国、音楽の国。

さて、新たな存在意義求めてさ迷うオーストリアの行く末はどうなるんでしょうね?なかなか楽しみでもあります。せっかくですから堅苦しいレーゾンデートル(存在理由)なんて問わず、バイオリンを片手にワインを飲みながら陽気にスキーでジャンプする鷲にしたらよいと、私は密かに思っていますが。

Pomfiのオーストリア紋章案
Pomfiの提案したい国家紋章


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