オーストリア散策エピソードNo.001-050 > No.024
前に戻る


謎に事欠かない伝説の山、ウンタースベルク
line


ザルツブルクの郊外には、「ウンタースベルク」という奇妙な伝説の山があります。一見何の変哲もない山なのですが、なんでもここで長いことカール大帝が眠っているのだとか。

その伝説によると、カール大帝はこの山の地下に従者たちと共に住み、王冠をかぶって丸テーブルに就いているのだそうです。で、自分の髭がテーブルの周りを3周するほど伸びたとき、彼はおもむろに目を覚まします。キリスト教徒の敵が総攻撃をかけてくるので、これを迎え撃たなくてはならないからです。その折には血気盛んな天使たちも元気よくラッパを吹いて、カール大帝軍にエールを送ります。その戦いの名称は「世界最期の戦い」。「最後」じゃなくて「最期」ということは、カール大帝が敵もろともに滅んでしまうということなんでしょうか?カール大帝が山から出てくるところは下の絵のようになるそうです。なんか、戦争をするわりには晴れやかですね。小人も嬉しそうにしていますよ。

ウンタースベルクから現われるカール大帝

さてこのお話し、別な説では、「カール大帝が目を覚ますのはドイツ民族が絶体絶命の危機に陥ったとき」とも言われています。日本の神風みたいですね。しかし、30年戦争、第1次世界大戦、第2次世界大戦のどれがきてもカール大帝が全然起きてこなかったところを見ると、ドイツ民族の未来には、もっとひどい試練があるんでしょうか?あったらかわいそーですね。

また、この山に住むのはカール大帝じゃないという伝説もあります。R フォン フライサウフが1880年に書いた「ザルツブルクの伝説」によると、ここに住んでいるのはバルバロッサ(赤髭王)と呼ばれた皇帝フリードリヒ4世なのだとか。その伝説は以下のとおりです。

バルバロッサは教皇から破門を受け、すべての教会から締め出されました。それで彼は安息を求める旅に出ますが、どこの聖職者にも相手にされません。そしてザルツブルクに着いたバルバロッサは、この地の大司教と派手な喧嘩をしでかし、「このバチ当たりめ!」と罵られてしまいます。それからしばらくして復活祭の季節がきました。教会から破門されたままのバルバロッサは、この神聖な祭りの邪魔はしないようにと、狩に出かけます。そして癇の強い馬に乗って従者とともにウンタースベルクのあたりの深い森の中に入ってゆきました。するとその森で、突然彼の手の中になんだか変な指が現われます。それを見た瞬間、バルバロッサの姿は従者たちの目の前から消えてしまいました。その後彼の行き先を知る者はいません。で、バルバロッサのほうはというと、気が付けばウンタースベルクの山の中にいて、それ以来この山の地下で心安らかな日々を送り続けているのだそうです。

このほか、ウンタースベルクに住むのはカール4世だという説もあります。で、カール4世も山の地下の丸テーブルに就いて、髭が伸びるのを待っているのだとか。その髭がテーブルを2周し終わったときにキリスト教徒の敵と戦争を始めるのだとか。カール大帝より少しだけ気が早いですね。

ところで、ウンタースベルクには高貴な人が住むだけではありません。死者の霊もこことさまようようです。ある伝説によると、ヨーゼフ クラプフという石切り職人がこの山から帰る途中で小人の一団とすれ違いました。その一行の後ろには、すでに亡くなったはずの知り合いもいたとのことです。で、ヨーゼフは一行の最後尾のひとりに「いったいこれはなんだ?」と聞きましたすが、相手は答えません。そのとき突然、ヨーゼフは地に倒れて気を失いました。再び気がついたとき、ヨーゼフはなにか悪いものを見たという予感にかられます。そして家に着くや、息絶えてしまいました。ウンタースベルクはオーストリアの恐山でもあるのです。

また、現地の友人から聞いたところによると、ウンタースベルクには無数の鍾乳洞があって、ある日この中に半日だか1日紛れ込んだ人がそこから出てきたら、すでに外では相当な日々が過ぎていた、という伝説もあるのだそうです。日本の浦島太郎みたいですね。

そういえば、ウンタースベルクという名前はどことなくドイツ語らしくないそうです。この名前が最初に文献に現われたのは1308年といわれ、「VUNTERENSPERG」と書かれています。で、ここに「S」が入っているのが、どうもオーストリア人の耳には違和感があるとのことでした。もしかしたらこの山の名前はケルト語に起源をもつのかも知れません。

実はこの山に関わる伝説もケルトっぽいところがあると考えている人たちがいます。しかもあまりに伝説のバリエーションが豊富なので、「その昔ケルト大帝国があって、ザルツブルクはその文化的な大中心地のひとつだった」と主張する人までありました。そして、「カール大帝とキリスト教徒の敵の最期の戦い」の伝説に、北欧神話の「オーディンたちによる神々の最期の戦い」の原型を見出す人々もいます。その人たちの主張はこちらです。ちょっと妄想という気もしますが、謎が謎を呼ぶというのは面白いですよね。願わくば、いつまでもこの山の謎が解明されず、人々の想像心をかきたて続けますように。


line

前に戻る