オーストリア散策エピソードNo.001-050 > No.018
前に戻る


食事招待のマナーは国様々
line


クセジュ文庫の「フランスエチケット集」によると、同じヨーロッパの国でも食事の招待を受けたときの礼儀にはずいぶん違いがあるようです。歴史とは直接関係ありませんが、今日はちょっとそれを覗いてみましょう。

まずイギリスですが、ここでは出された食事をニ口か三口ほど残すのがマナーなのだそうです。これで「本当に食べきれないほどたくさんご馳走していただきました」という気持ちを表すのだそうです。でも、これってちょっと難しそうですよ。イギリス料理はお世辞にもおいしいとは言えませんから、二口か三口食べて「もう降参!」と弱音を吐く人のほうが多いんじゃないでしょうか?

フランスは実にオーソドックスで、残らずきれいに食べるというのがいちばん喜ばれるのだそうです。量よりも質を褒めるのが大事というところは、さすが芸術の国ですね。このとき、ソースを残らずパンでふき取って食べることもお忘れなく。なお、あちこちの国々を演奏旅行していたあるスイスの音楽家に聞いたところ、フランス料理は欧州でいちばんおいしいので、残さず食べるのは極めて簡単なのだとか。ただ、ヨーロッパの料理は往々にして量が多いようですから、小食の方は予めその旨を申告しておきましょう。残すということは相手を相当傷つけるようですから。

面白いのはスペインです。この国はケチということで通っているそうですから、食事に招待されるなんてこと自体まずないと書いてありました。したがって、食事の招待のマナーも覚える必要なしとのことです。これは簡単でいいですね。また、電車のコンパートメントなどで同席したスペイン人からおかしなどを勧められても、「いただきます」などと言ってはいけないのだとか。まさか本当に食べるとは思わずに聞くからだそうです。ちょうど京都の「お粥でもどうぞ」と同じノリなんですね。なんだかウソっぽい気もしますが。

さて、クセジュ文庫には書いてありませんが、ここで我らがオーストリアのことも述べておかなくてはなりません。この国の人々はずいぶん昔から「食べることと飲むことしか考えてない」と揶揄されるほど食い意地が張っております。そして、食事に招待されたときのマナーも、これをよく反映したものになっています。まず、最初は小食だとかなんとか言って、料理を皿に少しだけ盛ってもらいましょう。そしてこれをすばやく平らげたら「おいしいので食欲が出てきました」といって、おかわりをしましょう。遠慮は禁物です。これが相手をいちばん喜ばせる食べ方なのですから。おかわりの回数に限度があるのかどうかは知りません。たぶん、鍋が空になるまで食べ放題だと思います。

なお、上述した「フランスエチッケト集」の原本が書かれたのは1950年代ですから、その後イギリス、フランス、スペインのマナーは変わっているかもしれません。一方、オーストリアのマナーは90年代に私が現地で確認したものですから、今でも有効だと思います。そういえば、1990年に友人たちとグラーツに行ったときのことですが、そこのペンションで朝食に出されたイチゴジャムがとてもおいしくて、私たちはビンの中にあった分を全部食べてしまいました。で、そのジャムを無料でおかわりした記憶があります。実はこのジャム、そのペンションを手伝うおばあさんの手作りでした。おばあさんはたいそう喜んだのは、いうまでもありません。また、私はオーバーエスタライヒ州のラープという小さな村の家庭で食事に招待されたこともあるのですが、そのときこの家の方はにこやかに「今日は景気よく音を立てて食べましょう!」と言ってくれました。日本人はナイフやフォークに慣れていないだろうと察して親切に言ってくれたのですね。オーストリアで食事に招待されるのって、本当に気楽ですよ。

あ、それから、こんなことは言わなくてもわかると思いますが、たとえまずくても、デザートは褒めてあげてください。特にオーストリアでは、これが日本の味噌汁に相当する大切な家庭の味ですから。ちなみに、私が下宿していたザルツブルクのティリーおばあさんの家庭の味の決定版はくるみの入ったアプフェルシュトゥルーデル(オーストリア風アップルパイ)でした。これ、絶対にオーストリアで最もおいしいデザートだと、私は確信しています。


line

前に戻る