オーストリア散策書棚 > No.39
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世界の民話 - オーストリア
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世界の民話 - オーストリア


出版元 ぎょうせい 発行 1985年8月10日(初版)
訳者 小澤俊夫、
飯豊道男
体裁 19cm×13.5cm
ページ数 405ページ


掲載されているお話し目次

三びきの犬の話/漁師のふたりの若者/ヴィティ/黒い皇女/赤い小人/ふしぎな男/かさぶた/ふしぎな白馬/金髪のシェーンハンヒェン/海辺の城/ふしぎな木/怖いものなしだったユングル/トゥルディ鍛冶屋/靴屋医師、もしくは名付け親の死神/飛び跳ねるないとキャップ/商人の三人の娘の話/アッシェンライン王/子牛の王様のこと/七羽のからす/フェーヌス鳥のこと/若い肉屋/金の庭の王様/こぶのあるふたりの楽士/裸の娘/ベーゼンヴルフ、ビュルステンヴルフ、カムヴルフ/白いくろうたどり/白い狼のこと/つかまった森の精と金持ちユーリウス/ふたりの狩人/十三人兄弟/強いハンスル/アルムライヒとシュメルツェンライヒ/またみつかった息子たち/にわとりのバッグパイプ/八字ひげの王様/熊と王女/火打ち道具と兵隊/盗っ人の花嫁/十二人の盗賊と水車場の娘/青ひげの騎士/貧しい靴屋/こげ茶のミヒェル/女の知恵にかなうものなし/王様だって全部は信じられない/憂慮懸念なし/ハンス、謎を解く/神様の恩返し/おろかなハンスルのこと/お百姓とかみさん/腕のいいペテン師のこと


ひとこと


今日の1冊は誰にでも気軽に読める本です。たまにはお気楽な読み物もいいでしょう。が、こういうあまり構えない民話にこそその国の土地柄というのはよく表れるものでもあります。よって、頭を使いながら読むのも悪くはありません。

海外の民話集といえば文庫本でもいろいろ揃っていますね。しかし、なぜか日本語で書かれたオーストリアの民話集だけはほとんどありません。念のためにネット検索で調べたところ、この本が刊行された1985年の時点でほかにオーストリア単独の民話を扱った本はまったく見当たりませんでした。その意味でこの本はなかなか価値のある1冊でもあります。    

さてこの本に載っている民話ですけど、やっぱり思ったとおりで、「これがなぜめでたしめでたしなのか?」とか「これのどこがお話しなんだ?」と思えるものが複数あります。例えば、「昔あるところに迷惑な力持ちがいて、いつまでも迷惑な力持ちでした」というお話しなどは、「だからどうした!」と突っ込まずには読めません。また、本人の努力なしで運のみの右肩上がりの人生が棚ボタというお話しが多めなところは面白いですね。日本なら花咲爺さんは正直なおかげでポチのご褒美だったし、浦島太郎などはせっかく亀をレスキューしたのに箱をあけたらただの爺さんになっておしまいですが、オーストリアの民話ではアホでも運さえ掴めば人生楽勝になっています。    

それから、逆玉の輿が多いのも日本の民話とは対照的です。そういえば、昔のオーストリアでは嫁さんの持参金がけっこうポイントで、例えばヒトラーのお父さんも最初は財力のある年配の女性と結婚しています。ついでにいうと、インドでは今でも嫁さんの家からの贈り物をアテにする男が絶えないといいますが、古代インドのサンスクリット語はオーストリアで話されているドイツ語と遠い親戚です。ということは、インドの民話にも逆玉の輿は多い疑いがありますね。    

また、美人の嫁さんを姑が始末しようとしたり、美人の娘を母親が始末しようとするお話しがあるところは、不自然なようでそうでもないところも。日本ではヨーロッパから民話や童話を輸入するとき極悪な母親を継母にスリ替えていますが、これは必要以上に後妻のイメージを悪くしていると思います。血縁のあるなしよりも親自身の仁徳の有無で子供の運命が変わるというオーストリアの民話のほうがフェアかと思います。ただし、自分に不都合な子を消そうとするとか、生き延びた子があとで親を処刑するというのはやりすぎですが。    

なお、今日の本のほかでは2006年4月に刀水社から「オーストリアの民話(窪明子著)」が出版されています。しかも、こちらのほうはもっと日本の人に馴染みのあるタンホイザーやファウスト博士のオーストリア版も載っているとのこと。後日この本も読んでみましょう。    



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