この本は元々、エリザベート皇后(シシー)とその周りの人々に関する資料として買い求めたもので、しかもその意図で読んでも十分に目的の達成できる1冊でした。
ところで、ハプスブルク王朝の帝国というと、かつて面積だけは大きかったばかりに、よく「栄光と悲惨」などと表現されますね。しかし、その歴史をよく眺めてみると、「トホホはあったけど大栄光ありというのは大袈裟かも」という気がしてきます。例えばナポレオンにやられるまでハプスブルク家から皇帝が出ていた「神聖ローマ帝国」は、フランスのヴォルテールから「神聖でもローマ的でもなく、帝国ですらない」とこきおろされていましたし、それはあながち嘘ともいえませんでした。「日の沈まない国」と謳われた時代でさえ、実際のハプスブルク帝国にはいろいろなほころびがあって、それが目立たないようにつぎはぎされていましたから。そしてそのインチキ帝国は「オーストリア帝国」や「オーストリア=ハンガリー帝国」に化けるなど、あの手この手でなんとか延命し続けたものの、そこから国運が上向く気配は一向になく、第一次世界大戦での敗北とともにとうとう崩壊してしまいました。
こうしてみると、ハプスブルク帝国というのは生まれたときからすでに寝たきりの素質を備えていたのかも知れません。そして、帝政崩壊間際に皇帝だったフランツ・ヨーゼフと皇后だったシシーは、ハプスブルク帝国を滅ぼしたというよりも、むしろ延命させてあげた人ということができそうです。先代のフェルディナント1世(無能すぎで生きてるうちに廃位)が皇帝を続けていたら、帝国の崩壊はもっと早かったでしょうし、その内容もかなりみっともなくなっていたと思います。
なお、ハプスブルク帝国が歴代の皇后の中でいちばん美しいシシーのいた時代に崩壊を本格化させたというのは、実に芸術的なタイミングだったということができます。帝国崩壊のときの皇后がもしも下品でブサイクな人だったら、著者は絶対にこの本を書く気になど到底なれなかったことでしょう。
|