オーストリア散策書棚 > No.33
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三つのチロル
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三つのチロル


出版元 新風舎 発行 2004.12.5(初版)
著者 今井敦 体裁 19cm×13cm
ページ数 223ページ


目次

●Kapitel 1 ・・・・・ 9
三つのチロル/第二の故郷/「国際的」なラディン人/スポーツと語学/アンドレアス・ホーファ/チロル方言/ドイツ人とオーストリア人
◆南チロルの歴史[1] チロルとトレンティーノ ・・・・・ 45
●Kapitel 2 ..... 51
思い出す人々/「ペラペラ」の不可解/『小鳥売り国際的』/「赤鷲」
◆南チロルの歴史[2] ファシズムとナチス ・・・・・ 73
●Kapitel 3 ・・・・・ 83
偏見との闘い/日曜日の買い物/ヘルマン・ブライと伯父の死/ゲーテがブレンナーで考えたこと
◆ボーツェン道案内 ・・・・・ 106
●Kapitel 4 ・・・・・ 115
言語は「自然に」身に付くものか?/『美しき水車小屋の娘』/自転車といインスブルック/つましい月日
◆南チロルの歴史[3] パリ協定 ・・・・・ 150
●Kapitel 5 ・・・・・ 157
翻訳の罪つくり/インスブルックの居酒屋案内/川辺の記憶/子供の語学と大人の語学
◆南チロルの歴史[4] 紛争解決へ ・・・・・ 150
●Kapitel 6 ・・・・・ 197
ハイネの見たチロル/とまとの話/旅立ち



ひとこと


この本のタイトルにある「3つのチロル」とは、今の州都インスブルックを中心としたチロル州本土、第一次世界対戦のあとイタリアに併合された南チロル、そしてその併合が元でチロル本土から飛び地となったオーストリアの東チロルを指しています。もっとも、南チロルは北半分が昔からオーストリア系の土地だったのに対し、南半分は古くからイタリア系でしたから、より正確にいうなら「4つのチロル」というべきかも知れません。    

チロルはナポレオン戦争のとき、ウィーンが降参状態になってもなお、アンドレアス・ホーファーを首領として敵と戦い続けた歴史をもっています。そのため、「チロル人にあらずばオーストリア人にあらず」などと豪語する人もいます。が、今のチロル人の一部は領土喪失のおかげで国籍はイタリア人という皮肉なことに。しかも、チロル発祥の地はティロル伯(イタリア名はティローロ)が今のメラン市(イタリア名はメラーノ)の近くに築いた城のあるところだったのですが、その一帯は現在、オーストリア領じゃなくイタリア領になっています。    

そうした背景から、南チロルのオーストリア系住民とイタリア系住民の仲はあまりよろしくありません。しかし、だからといって住民同士が全面的な戦闘に突入しようとするわけでもないところは、他の領土紛争地域と少し趣が違います。例えば、武器を取るかわりに自分たちの民族の誇りとなっている人物の石像建立を競い合うところなどは、なんだかのどかで平和な戦いでもあるともいえます。    

そして、のどかな戦いのあるところには、ちょっと笑えるトホホな歴史もたくさん隠されています。この本は基本的にオーストリア系住民の立場に立って書かれたものですが、その記述内容を手掛かりにチロル史をもっと調べてみると、きっと面白いエピソードがいくつも見つかると思います。    

それから、南チロルというと一般にオーストリア系とイタリア系住民のことばかり取り沙汰されますけど、この本にはもうひとつの少数民族であるレト・ロマン語を話す人々のことも書いてあります。そして、その人たちが優れたバランス感覚をもってけっこう器用に世渡りをしてゆく様子もなかなか面白いですよ。    



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