ちなみにドイツ語の基準として有名なDudenの辞書の1つには「Wie
sagt man in Oesterreich? (オーストリアではどう言うか?)」という本があるのですが、その副題には「Deutscher
als Deutschland(ドイツよりもドイツ的)」というけっこう激しいことが書いてあります。その背景には、ドイツ語で書かれた文学作品として最古級にあたる「ニーベルンゲンの歌」やヴァルター・フォン・デア・フォーゲルヴァイデ(チロル出身)などの詩がバーベンベルク朝時代のオーストリアのドイツ語をベースとしていたというプライドと見栄があるんでしょうね。ちょうど日本でいうなら、紫式部や清少納言の流れを汲んだ京都弁がウィーン弁にあたり、明治時代以降の東京弁が今の標準ドイツ語にあたると置き換えれば、その事情はよくわかると思います。
なお、標準ドイツ語とウィーン弁(オーストリア弁全体やバイエルン弁も含む)で文法的に異なる点としては、3つだけ覚えておくとよいことがあります。その1つは、ウィーン弁では「2格(英語でいうと所有格に近いです)」でモノをあまり表現しないということ。たとえば標準ドイツ語で
Der Hut des Vaters(お父さんの帽子)というところをウィーン弁では
in Vatta sein Huad(お父さんにとって彼の帽子)というヘンな言い回しをします。2つめは、現在完了形のとき標準ドイツ語では
sein + 過去分詞とするところが、ウィーン弁では
haben + 過去分詞になったりするということです。そして3つめは、ウィーン弁の場合(特に会話のとき)、過去形も現在完了もすべて現在完了形で片付けていいらしいということです。これはラクでいいですね。