オーストリア散策書棚 > No.25
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Heidi (ハイジ)
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復刻版
出版元
Georg Lenz Verlag
GmbH, Muenchen
復刻版
初版
1978年
著者 Johanna Spyri 体裁 B5版
原書初版 第1部 1880年
第2部 1881年
ページ数 335ページ


目次

Teil 1 Heidis Lehr- und Wanderjahre [第1部 ハイジの学びと遍歴の時代]
1. Zum Alm-Oehi hinauf [アルムじいさんのいる山へ] - p.11
2. Beim Grossvater [おじいさんのところで] - p.25
3. Auf der Weide [牧場へ] - p.35
4. Bei der Grossmutter [おばあさんのところで] - p.51
5. Es kommt ein Besuch und dann noch einer,der mehr Folgen hat
[1人の訪問者、そしてもう1人のハイジをつれて行った訪問者] - p.67
6. Ein neues Kapitel und lauter neue Dinge [新たな章、そしてまったく新しいものごと] - p.79
7. Fraeulein Rottenmaier hat einen unruhigen Tag [ロッテンマイアーさん、ご災難の1日] - p.89
8. Im Hause Sesemann gibt's unruhig zu [フランクフルトのお屋敷では穏やかならず] - p.105
9. Der Hausherr hoert allerlei in seinem Hause, das er noch nie gehoert hat [フランクフルトに帰ったゼーゼマン氏、これまで耳にしていなかった顛末を聞く] - p.117
10. Eine Grossmutter [おばあさん] - p. 125
11. Heidi nimmt auf einer Seite zu und auf der anderen ab [ハイジの症状は一進一退] - p.137
12. Im Hause Sesemann spukt's [ゼーゼマン家に幽霊現る] - p.145
13. Am Sommerabend die Alm hinein [夏の夕方、アルムへ] - p.159
14. Am Sonntag, wenn's laeutet [日曜日に鐘が鳴れば] - p.179

Teil 2 Heidi kann gebrauchen was es gelernt hat [第2部 ハイジは自らの学んだことを(実生活に)役立てることができる]
1. Reisezuruestungen [旅の支度] - p.203
2. Ein Gast auf der Alm [アルムに来た客人] - p.213
3. Eine Vergeltung [ある報い] - 225
4. Der Winter im Doerfli [デルフリ村の冬] - p.237
5. Der Winter dauert fort [冬はまだ続く] - p251
6. Die fernen Freunde regen sich [遠く離れた友らの再会] - p.261
7. Wie es auf der Alp weitergeht [アルプスでのその後] - p.281
8. Es geschiet, was keiner erwartet hat [思いもよらないことが] - p.293
9. Es wird Abschied genommen, aber auf Wiederseheh [また会う日まで] - p.311



ひとこと


今日ご紹介する本はスイスのものですけど、その舞台となっている場所は今のグラウビュンデン州で、オーストリアのフォアアールベルク州のすぐ隣りにあります。つまり、昔のオーストリアアルプスの生活を知る手掛かりとして、ハイジのお話しは有用なんですよ。また、文中にはスイス風のドイツ語(アレマン方言)のことばがいくつか出ていて、これもオーストリアのフォアアールベルク州と共通した訛りです。たとえばハイジのいた村は原文でデルフリ(Doerfli)となっていますが、これはアレマン方言で単なる「小さな村っこ」という意味のことばで、オーストリア西部でも似たような発音をするんですよ。

それから、フランクフルトのお屋敷とアルプスの田舎の言葉使いの差にハイジが混乱する場面も面白いです。たとえばハイジは召使いのセバスチャンに「Du(あんた)」と気安く声をかけていますが、ロッテンマイアーさんは「あんた」どころか「あなた(Sie)」とも言わず、今のドイツ語では使わない極めてよそよそしい表現のEr(今のドイツ語では彼という意味)を使っています。

ハイジのストーリーはアニメ名作劇場を通じて日本なら誰でも知っているでしょうから、これは省略します。でも、シュピリが書いたオリジナルと日本のアニメがどの程度一致しているかという点はちょっと興味深いテーマですね。それで、上の目次には簡単に和訳(スイス風のドイツ語がわからず、一部テキトーに訳してますが)もつけてみました。で、これを見ると、ごく一部に新たな挿入話しが加えられている点を除けば、ハイジのアニメは原書にわりと忠実ですね。ただ、この続きで原書ではクララの家が気前よくお金の援助をしてハイジやペーターの家の生活をより豊かにしているのですが、これは日本のアニメじゃ省略されています。せっかくの清貧が台無しになると考えられたせいでしょう。

ついでに、原書の登場人物の顔がアニメと原書で一致してるかどうかも確認してみましょう。まず最初はハイジとアルムじいさんです。下の挿絵はデーテがハイジをアルムじいさんの家に置き去りにした場面なんですが、頑固そうなじいさんはアニメとよく似た雰囲気ですね。原書のほうが髪はやや薄めですが。一方、ハイジは原書のほうだとだいぶ田舎娘という感じです。


ついでながら、原書のペーターは下の画像のとおりです。こえrはたまたま不機嫌なときの顔なんですが、基本的にはアニメとよく似たものですね。


お次はクララとロッテンマイアーさんです。クララは原書のほうがアニメよりずっと長いスカートですね。が、ロッテンマイアーさんのほうは原書とアニメがピッタリ一致しています。


続いて、アニメで猿そっくりに描かれていたセバスチャンですけど、こちらは原書でも猿そのものです。


最後はクララが立ち上がって驚くおばあさんの挿絵です。クララのスカートはやや短くなって、今度はアニメとほぼいっしょですね。ハイジのほうはいつの間にかセーラー服みたいなのを着ていますけど。あと、おばあさんのほうは後ろ姿なのでよく顔がわかりませんけど、アニメに比べて原書のほうはややスリムという感じがします。


おしまいに、ハイジの原書が書かれたのは第1部が1880年、第2部は1881年で、当初ヨハンナ・シュピリは第1部だけを匿名で著したんだそうです。で、それが好評だったので出版社から要請を受け、クララが歩けるようになる第2部が書かれる運びとなりました。中途半端で終わらなくてよかったですね。

それと、ハイジの作品が書かれたのはスイスやオーストリアで産業革命が始まったばかりの頃なんですが、そうした時期に早くも現代の田園生活の見直しと同じ香りがある点はちょっと心にとめておきたい事実ですね。日本で石油ショックの1974年にこのお話しがアニメ化されて人気を博したのも、高度経済成長に疲れて、豊かさとは別な幸福のあった時代への郷愁があったためかも知れません。



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