この本、正直言って面白いというわけではありません。ただ、私の知る限り、これは日本語でオーストリア文学史が読める唯一の本です。その意味で、この本には大きな価値があると言えるでしょう。
著者のエルンスト・ヨーゼフ・ゲルリヒ博士がこの本を書いたのは1946年12月でした。そして、この日本語版を発行した南江堂は、京都にある医学専門書の出版社です。この出版社の方、ちょっと気まぐれでも起こしたんでしょうか?
さてその内容ですが、バーベンベルク時代から第2次世界大戦までのオーストリア文学の紹介が淡々と書かれ、戦後のことについては訳者のあとがきで少し触れてあります。ただ、ここでいうオーストリア文学とは、今のオーストリア共和国のエリアで書かれた作品を指すようで、ハプスブルク時代に活躍したチェコのカフカ、ハシェクなどについては、言及されていません。たぶん、戦後間もなくの時代なので、著者にも遠慮があったのでしょう。しかし、いつの日にか、せめて学術の面は何のわだかまりなく、スラブとゲルマンの人たちが作り上げてきた旧オーストリア文化圏の文学史の本が出ることを望みます。
P.S. その後、日本語の初版を刊行した南江堂は「オーストリア文学史」は絶版となったもようです。で、現在は芦書房というところが下の写真のように表紙をリニューアルして「オーストリア文学史」を発行しています。しかも、かつては1冊4,200円(消費税抜き)だったこの本を芦書房は1冊2,800円(消費税抜き)に値下げ。良心的な出版社ですね。

2005年現在の表紙 |