今日はシシーとその周辺の人々の名前を日本語にしたらどうなるかということをまとめてみました。これ、けっこう面白いですよ。

まずシシーの名、エリザベートは「神への誓い」を意味するんだそうです。ということは、日本でいえば「誓子」さんですね。そういえば私が中学生のとき同じクラスに「神誓子」というエリザベートそのもを和訳した名の子がいました。落ち着いた文学少女で、すぐどこかに転校してゆきましたけど。

次にシシーのご両親ですが、母親のルードヴィカはムリして和訳するなら「凄子」という名になりますけど、こんな名の日本人なんかいませんね。もう少しマシな表現をしても「猛子」というセンがせいぜいで、獣偏をとれば中国の「孟子」と同じになっちゃいます。なぜこんなすごい名がついたのか私は頭をひねってしまいましたけど。当人は獰猛というよりも忍耐強い良妻賢母というタイプの人だったのですが、確かに晩年の写真の表情を見ていると、いい意味でどこか凄みを感じさせるところはあります。

シシーの父親のマクシミリアンは「剛士さん」にあたります。この名だったら日本にもたくさんありそうですね。しかし、この人はその名に反してお気楽でスマートな優男で、一生を好き放題に楽しく暮らしていました。

それと、シシーの姑にあたるゾフィーは「智子さん」といって、これは日本にもたくさんありそうな名前です。日本中の智子さん、どうぞお気を悪くされませんように。気休めといってはなんですが、ハプスブルク家によい意味での新風を少し吹かせたフランツ・フェルディナント皇太子妃のソフィー・ホテクさんも「智子さん」ですから。

続いてシシーの兄弟姉妹ですが、姉のヘレーネは日本でいうと「輝子さん」です。この人は母親似のしっかり者でしたが、やや地味なところも母親譲り。しかし、自分自身は輝かなくても、嫁ぎ先のトゥルン・ウント・タクシス家の輝きを維持するほうにはだいぶ貢献しました。

また、シシーと最も仲良しだった弟のカール・テオドールはカールが古いドイツ語で「男」、テオドールはどうやらラテン語の神（デウス）と与える（ダーレ）をくっつけた贅沢な名のようで、これをムリして日本にありそうな名にするなら「珠男（たまお）君」とでもしたらいいんでしょうか？珠は神に与えられし宝の意味のつもりですが。この人はその後眼科医になったのですが、当時貴族の子弟が医師を商売にするのは禁じられていたので、タダで治療してたんだそうです。確かにタダなら商売してるとはいえませんね。なかなか愉快な人です。

シシーの最も年上の兄であるルートヴィヒは、母親と語源が同じだから「猛雄君」といったらいいでしょう。この人は町娘と結婚してヴィッテルスバッハ家の相続権を失いましたが、本人も父親もワッハッハだったそうです。あまり猛々しくありませんね。しかし、どうしてシシーの家にはこういう人が多いんでしょう？

その他の兄弟姉妹では、ヴィルヘルムがムリして訳せば「守男君」、マティルダは権力だの戦だのという意味なので強引にそういう象徴と合わせるなら北杜生の「楡家の人々」に出ていた「龍子さん」あたりで手を打っておきましょうか。ちなみに、私の高校の先輩には龍子さんという名をもつ人が実際にいましたけど、この人はとても優しいお姉さんでしたよ。

あと、シシーの弟のマクシミリアン・エマヌエルは「めちゃくちゃ強いうえ神様の恩寵もたっぷり」という意味で、さすがにこれを日本語の名にするのはムリです。また、妹のマリー・ソフィー・アマーリエはマリーの語源が不明、ソフィーは智子さん、アマーリエはアマがたぶんラテン語の愛でリエは意味がわかりませんでした。この2つはどうしようもありませんね。

おしまいはシシーの夫のフランツ・ヨーゼフですが、フランツの語源は「大昔のフランク族が持っていた斧の名前」で、ヨーゼフは「神様が癒し給う者」というわけで、これまた日本語化は困難。まあ、斧のほうは無視して後ろのほうの安らぎを感じさせる部分だけとって「安雄さん」としておきましょう。でも、この名前って本人にいちばん欠けていたものを表していましすね。

なお、今日ご紹介の日本名については一部に少し強引なのも入っています。そんなわけで、今日のお話しはあまり真剣に考えず、ほんの余興とでも思っておいたほうがいいでしょう。ただ、仰々しい横文字の名前をごく身近にありそうな日本人の名前に置き換えてみると、シシーとその周りの人たちにちょっと親近感が増してきますね。

◆参考文献：
エリザベート - エリザベート関連系図、 マックス公と美しい娘たち
M.シェーファー著、 大津留厚監訳、 永島とも子訳、 刀水書房
系図の迷宮 - 人名言語変化対応表Part1、Part2
http://www9.wind.ne.jp/chihiro-t/royal/