オーストリア散策シシー > アラカルトNo.06
前に戻る


シシーの奇妙なフォトコレクション
line


シシーは外見の美しさを維持することに異常なほどの情熱を燃やしました。朝は5時(冬は6時)に起きて水風呂。それからわずかな朝食をとると長時間の体操を開始。室内で体操をしているうちはまだいいのですが、これが外でウォーキングとなるとハンパな運動ではありません。なにしろ35kmを7時間で踏破したりするんですから。運動が終わると今度は3時間もかけて髪の手入れ。しかも、ちょっとでも髪が抜けると、シシーは大騒ぎです。おかげでお付きの人たちはいつも大迷惑したといいます。

シシーは破天荒な行動をとることがある一方で、非常に内気なところもあったといいます。晩餐会ではいつも小声でしか話さないため、隣席した人がそれを聞き取れず、結果として会話が支離滅裂になったこともあるそうですよ。そうしたシシーにとって、美貌とは上流社会で生きてゆくための武器だったとのだいう見方があります。単なるナルシストだったからと見る人々もいますが。

さて、そのシシーにはひとつ奇妙なコレクションがありました。それは、下の写真にある美女の肖像の数々です。彼女は各国に派遣したオーストリア大使たちに、その国の美人の写真を撮って送るように命じます。しかし、よくもこんなに集めたものですね。このコレクションに入っているのは貴婦人だけではありません。駐仏オーストリア大使の夫人などは、馬の曲芸乗りを得意とするシシーへのあてつけで、わざと芸人の女性の写真ばかり送りつけてきたといいます。そりゃそうでしょう、こんな意味不明な命令を出されらムッとするのもあたりまえです。もっとも、シシーのほうはサーカスの女でもなんでもきれいなら喜んで屏風やアルバムに貼っていましたが。


シシーの美人写真コレクション

シシーがこの奇妙なフォトコレクションをしたことについては、「自分の美貌と比べるが目的じゃないのか?」とか、「貴婦人も平民の女性もいっしょに並べるところに民主的な思想が現われている」などと、いろんな解釈がされています。でも、私はシシーにそんな深い考えはなかったような気がします。いくら美貌にこだわると言っても、限度というものがあるでしょう。

そういえば、シシーの叔父であるバイエルン王ルートヴィヒ1世も美人の肖像をいっぱい集めていたそうです。当時は写真などありませんでしたから、宮廷画家のヨーゼフ・ティーラーという人がその肖像を描いていました。そのモデルを選ぶとき、ルートヴィヒ1世はきれいなら誰でもいいと言って、公爵夫人から娼婦まで、あらゆる女性に目を向けたといいます。その絵の数々は、今でもミュンヘンのニュンフェンブルク宮殿に所蔵されていますよ。これらの肖像画を小さなとき目にしたシシーは、たぶん素直にステキと思ったことでしょうね。シシーのフォトコレクション、歴史家には悪いけど、やっぱり私は単なる趣味だったのだろうと思います。



line

前に戻る