オーストリア散策シシー > アラカルトNo.03
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シシ−の自慢は髪、コンプレックスは歯
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シシー

シシーの自慢は、なんといってもあの栗色の長い髪でしょう。後世の本には、「手入れのときに髪が1本でも抜けるとシシーが大騒ぎするので、待女たちはそれとわからないように接着剤を使った」などという記述も残っています。少し誇張があるものと思いますが。

シシーはこの長い髪のためにいろいろ難儀もしたようです。髪があまりに重いので頭痛となり、自室にこもって髪をリボンで吊り上げて頭を軽くすることもよくあったとか。また毎日の髪の手入れには3時間以上もかかり、3週間ごとに行う卵とコニャックのシャンプーでの洗髪に至っては丸1日を要して、終日面会謝絶にならざるを得なかったそうです。

このシシーには大変お気に入りの髪結師がひとりいました。その人はファニー・アンゲラという平民出身の美しく大柄な女性です。元はブルク劇場付きの髪結いをしていたのですが、年間2,000フローリンの俸給でシシーに雇われました。彼女は単に髪を結うのがうまいだけでなく、気難しいところのあるシシーの心を解きほぐす術にも長けた人でした。たぶん、ブルク劇場の女優たちを相手にするうちに、だいぶ人心を得る腕を磨いてきたのでしょう。

さてある日のこと、ファニー・アンゲラは思いを寄せていた銀行員との結婚に難航します。それを知ったシシーは、さっそく彼女を手助けしようと動きました。ところがここで問題がひとつ。宮廷に仕える者は、市民と結婚したらそこを出なくてはならないという規則があったのです。しかし、せっかくのお気に入りの髪結師を手放すことなど、シシーにはできません。そこで一計を策したシシーは、皇帝にねじこんで規則を曲げる、その銀行員を自分の秘書として宮廷に採用してしまいました。美しい髪を守るためとはいえ、なかなか強引なことをやってのけますね、シシーも。

こうした特別の計らいに自信をつけたファニー・アンゲラは、その後シシーに対して大きな影響力をもち続けたそうです。そして、宮廷の中ではむしろシシーのほうがファニー・アンゲラに気を遣う場面もあったのだとか。また、銀行員だったファニー・アンゲラの夫も、皇妃の個人秘書から旅行責任者、宮廷参事官、宮中顧問官、さらには貴族の一階級である騎士(Freeiherr)にまで出世しました。おかげでこの夫婦、宮廷ではだいぶ嫉妬も受けたようですが。

ところで、手段を選ばず自慢の髪を守り抜いたシシーにも、ひとつだけコンプレックスがありました。それは歯が黄色っぽかったことです。そのせいでしょうか、シシーには歯をみせて笑った写真がありません。よほど気にしていたんでしょう。そいえば、シシーが若い頃、夫のフランツ=ヨーゼフがソフィー皇太后には宛てた手紙に、「シシーの歯はもう黄色くありません」などと、無理して書いた一文が残っていますよ。





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