オーストリア散策伝統の宿 > No.12
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Auracher Loechl (クフシュタイン)
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アウラッヒャー・レッヘルのマーク
★★★★

今日ご紹介するホテルは、チロルの州都インスブルックからミュンヘン行きの特急列車で1時間ほど行ったところにある小さな町・クフシュタインの「アウラッヒャー・レッヘル」です。この宿、私が泊まった頃(1991年1月)は3つ星クラスの家族向けガストホーフ(料理屋付き旅籠)で、部屋もごく普通でした。しかし、みんなで見るテレビや子供用のカードゲームなどが置いてある大広間はまるで日本の「お茶の間」みたいで、見知らぬ旅行者同士が気軽に歓談できるような雰囲気がありましたよ。今はオーナーが代わって4つ星のホテルになっていますが、あの「お茶の間」はまだ残っているんでしょうか?

アウラッヒャー・レッヘルの外観
Auracher Loechelの外観

1991年当時の「アウラッヒャー・レッヘル」の外観は上の写真のとおりです。チロルの雰囲気がよく出ている建物ですね。同ホテルのホームページで調べたら、今でも外見はほぼこのままで健在となっていました。

このホテルの名前を日本語にすると、「アウラッヒャーさんとこの穴っこ(←語尾がオーストリア弁)」という変な名前になります。アウラッヒャー家というのは13世紀からクフシュタインに住み始めた一族で、この人たちは1410年〜1436年にかけて今の「アウラッヒャー・レッヘル」の基礎となる建物を築きました。また、そのときアウラッヒャー家の人たちは近くのクフシュタイン城がある山に長さ90mもの穴を掘りました。その穴の中は夏でも大変に温度が低く、日本でいうなら「氷室」のような役目も果たしていたといいます。田舎町の小さなホテルなれど、その名前の由来には600年以上の歴史があったのですね。

ちなみに、アウラッヒャー家の本業はビールの醸造でした。そして、ビール作りには涼しい場所(というよりも寒い場所)が必要なので、城山に掘ったこの穴は同家の家業に大変役立ちました。また、アウラッヒャー家は町の名士でもあり、19世紀末までに合計で10人のクフシュタイン市長を輩出したといいます。しかし、その後同家の血縁は途絶え、私が泊まった1991年にはノイハウザー家の人たちが「アウラッヒャー・レッヘル」を経営していました。さらにその翌年にはツィラータール地方(かなり田舎)の実業家であるヒルシュフーバー家がこのホテルを買い取り、2003年以降はその息子さんが経営をしているそうです。

ところで、「アウラッヒャー・レッヘル」にはもうひとつ小さな歴史があります。それは、チロルで最も有名な民謡である「クフシュタインの歌(副題はチロルの真珠)」という歌が生まれた場所だということです。この歌、日本でいうなら「花笠音頭」に匹敵するくらい有名な一曲ですよ。

「クフシュタインの歌」を作曲をした人はカール・ガンツァー(1920-1988)といって、「アウラッヒャー・レッヘル」のお抱えの音楽師でした。で、この人は第二次世界大戦が終結してオーストリアが連合国の管理下にあった1947年にこの歌を作詞・作曲しました。その歌詞の1番は「君知るやチロルの真珠を/それは小さな町クフシュタイン/山々に囲まれてとても平和で静かなところ/それが緑のイン川のほとりのクフシュタインさ」となっています。しかし、この町はバイエルンとチロルの国境にあって何度も激しい戦闘の繰り返されたところですから、「平和」というのはホラでしょう。おまけに1809年には大火で「アウラッヒャー・レッヘル」の建物もろともに町が一度灰になっていますけど、これはナポレオン戦争の頃と時期が重なります。普通の平和な火事ではなかったようですね。

そうそう、このホテルのホームページで上の部分にあるメニューから「HOTEL>Geschichte(歴史)」と進むと「クフシュタインの歌」の歌詞がドイツ語で紹介されているのですが、その下にある「Kufstein Lied Download (MP3 | 5,9 mb)」というところをクリックすると、「ワインのおいしいアウラッヒャー・レッヘル!豪州人も米国人も日本人も南米人もやって来るチロルの極楽!」という陽気だけど全然関係ない歌が流れます。これ、単純なリンクミスなんでしょうか?

なお、1991年の「アウラッヒャー・レッヘル」の料金はシングルで350シリング(当時のレートで約4,000円〜4,500円)でした。現在(2007年7月1日)ではこれが56ユーロ(約9,200円)となっていますが、2000年以降延々と続く円安のことを考えれば、あまり大きく値上がりはしていませんね。また、このホテルは涼しい穴倉(1809年の大火でもセーフ!)を生かして、今はワインを売り物にしているようです。ワインを飲めない人はりんごジュースでも飲みながら、600年以上も前に掘られた穴倉の見学ツアーを楽しむというのもいいかも知れません。

[オマケ] クフシュタインの歌はこちらのページでご鑑賞いただけます。



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