オーストリア散策 > エピソード > No.145 |
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モーツァルトには髭がありません。これ、なぜだと思いますか?「ウィーン 路地裏の風景」(河野純一著、音楽之友社)によると、それは「当時流行していた嗅ぎタバコを吸うため」だったんだそうです。そういえば、その前後の時代に活躍したハイドンやベートーヴェンも髭なしです。よっぽど嗅ぎタバコが流行っていたんでしょうか。
お次はヨーロッパ各地に嗅ぎタバコが伝わった17世紀の皇帝です。こちらを見ますと、フェルディナント2世の代から髭が少しづつ減っていますね。そして、続くフェルディナント3世では顎髭が後退、さらにレオポルト1世の髭はもっと減って、ほとんど鼻の下だけになっています。これなら鼻からものを吸う作業にもさほど困ることはないでしょう。嗅ぎタバコの普及との歩調はしっかり合っています。
その次は嗅ぎタバコが全盛期を迎えた18世紀の面々です。こちらでは初っ端のカール6世の顔から髭がきれさっぱり消えていますね。で、マリア=テレジアはいくら頑張っても髭が生えて来ないので仕方ないとして、その夫であるフランツ=シュテファン(肖像画は省略)も髭はありませんでした。また、その息子のヨーゼフ2世も髭なしで、さらに時代を降りてフランツ2世(オーストリア皇帝としてはフランツ1世)の顎もツルツル。このほか、下記では肖像を省略していますが、次のフェルディナント1世(1793-1875)の中年の頃の肖像画にも髭などは生えていませんでした。こりゃ見事に嗅ぎタバコの歴史と一致していますよ。
では最後に嗅ぎタバコが廃れていった19世紀中盤以降の皇帝を眺めてみましょう。その結果は下にあるフランツ=ヨーゼフの肖像画のとおりで、ドーンと思いっきり髭を伸ばしています。で、この皇帝の若い頃の肖像画を遡ってみたら、1853年(23歳)にはまだ鼻の下にささやかな髭を伸ばしているだけ。しかし1857年(27歳)の肖像画では晩年のようなスタイルの髭になっていました。
それにしても、ハプスブルクともあろう名門一族の髭が200年以上に渡ってたかだか嗅ぎタバコにこれだけ影響されていたというのは、よく考えてみるとなかなか微笑ましいことですね。どんなに高位といっても、所詮は同じ人間です。
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◆参考文献: |
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