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ソフィー大公女はなぜ荒れた?
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ゾフィー大公女
ゾフィー大公女

ゾフィー大公女(1805-1878)といえばフランツ・ヨーゼフ(1830-1916)の妃シシー(エリザベト皇后、1837-1898)をいじめた鬼姑として悪名高くなっていますね。まあ、のちの人々が尾ひれをつけたところもずいぶんあるとは思いますが、ホントのところはどこまでワルだったんでしょう?

ゾフィーはシシーと同じバイエルンのヴィッテルスバッハ家出身でした。政略結婚でハプスブルク家に嫁いできたのは19歳のときです。当時ウィーンでは「情熱的で頭がよく意思も堅い皇后がきた」との評判だったそうですが、その夫となったのはダメダメ皇帝フランツ1世(1768-1835)の次男の、これまた冴えないカール・ルートヴィヒ(1802-78)でした。ゾフィーが夫をひと目見て落胆したのはいうまでもありません。

ゾフィーにはなかなか子供ができませんでしたが、結婚7年目になってやっと1人の男の子が生まれました。その王子は啓蒙君主を目指したヨーゼフ2世(1741-1790)と祖父のフランツ1世に因んでフランツ・ヨーゼフと名付けられます。そしてこの子は思い掛けずも健康で出来がよく、これがゾフィーを大きく喜ばせました。

さて、野心というものが微塵もない夫に最初から愛想を尽かしていたゾフィーは、自分の夢を長男のフランツ・ヨーゼフに託そうとします。そう、皇帝の妻になれないのなら、皇帝の母になろうとしたのです。なんかだんだんキナ臭くなってきましたよ。

立派な息子をもっと立派に仕立て上げ、その妃も非のうちどころのない人間でなくてはいけないと、ゾフィーは常にフランツ・ヨーゼフに完全を求めます。これらはすべて息子のためのつもりだったのでしょう。でも、なんだか現代の日本でも子供に実力以上の成果を求める親たちはいませんか?その親も悪気はないのでしょうが、心のどこかに自分や配偶者ができなかったことを子供に叶えてもらって自己の欲求を満足させたいというところが見え隠れします。重圧になるような期待は愛情じゃありません。自分の夢は自分で叶えましょう。さもなければ、きれいにあきらめることです。

フランツ・ヨーゼフはゾフィーの期待によく応えるいい子でした。あまりにいい子を演じ続けたおかげで、いつの間にかゾフィーには逆らえなくなるという副作用もありましたが。一方、ゾフィーはフランツ・ヨーゼフの存在によって宮廷内の権力を握り始め、ついに政治にも口をはさむようになってゆきました。そして、息子を皇帝の座につけるチャンスがいよいよやってきます。1848年のウィーン革命です。この革命劇のドサクサでゾフィーの一派はメッテルニヒを追放、虚弱体質だった皇帝フェルディナント1世(1793-1875、虚弱なわりに長生き)も廃位となり、弱冠18歳の息子フランツ・ヨーゼフが新たな皇帝に就きました。

このときのゾフィーの感覚は、小泉内閣が誕生したときの田中真紀子氏に合い通じると思います。自分あっての皇帝というわけですから。ところが、フランツ・ヨーゼフは自分の結婚の件で初めてゾフィーの言うことを聞きませんでした。ゾフィーのお眼鏡にかなったのはヴィッテルスバッハ家のバイエルン公女ヘレーネでしたが、息子はその妹のシシーに一目惚れしてしまったのです。ゾフィーはムッとしました。

結局この件はフランツ・ヨーゼフの意思を通すことになりましたが、その妃となったシシーはなかなかの跳ね返りで、全然ゾフィーのいうことを聞きません。一方ゾフィーは若い世間知らずの皇帝と皇后を正しい道(あくまでのゾフィーの価値観での正しい道です!)に導くためにいろいろ口を出してきました。たとえばシシーの子供を取り上げたのも、ゾフィーとしては「完全無欠な子育てには若夫婦では役不足」という親切心のつもりだったと思いますが、シシーからみたら「母親から子供を取り上げるなんてヒドイ姑」だったでしょう。で、フランツ・ヨーゼフはといえば、小さいときから親孝行を求められていい子できたわけで今さらゾフィーを失望させることはできず、かといって愛するシシーを敵に回すなんてとんでもないというわけで立ち往生。結局嫁姑戦争には手出しができずにただ指をくわえて見ていることになりました。トホホ。

では、まとめに入りましょう。ゾフィーは何も意地悪が目的で鬼姑みたいになったわけではなさそうです。ただ、自分の夢に息子を巻き込んだのは愚かです。普通の神経をした子供は親に対して育ててもらったという恩を感じるものだと思います。ですから、親の期待に応えられるうちは応える努力を続けるでしょう。フランツ・ヨーゼフはたまたま優秀な息子だったので長きにわたってゾフィーの期待に答え続けました。しかし、デキの悪い子なら早々に限界に来てキレますよ。ましてや、実の子でもないシシーが反発するのは当然です。ゾフィーは他人に夢を託すのをほどほどにしなくてはいけませんでした。

ゾフィーのもうひとつの問題は夫婦仲の悪さですね。でも、政略結婚では自分で相手を選べないわけですから、この点については同情いたします。恋愛結婚ができたシシーをうらやむ気持ちだってあったかも知れません。そういう事情を考えると、ゾフィーばかりを悪く言うのは可哀想でしょう。ただ、今の時代で夫婦仲の悪い人たちはご注意を。配偶者に対する不満が子供への期待にスリ代わると、ゾフィーみたいになりますよ。仲良くする努力をしましょう。


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