チロル民謡・クーフシュタインの歌には、「そう、それが緑のイン川のほとりの町クフシュタインさ」という歌詞があります。このイン川に限らず、オーストリアにはなぜか緑色をした川がよく流れています。その理由は、この国の川の水が多くのミネラルを含むためと言われています。特によく含まれているのは、石灰分です。オーストリアアルプスには、実際に石灰岩がたくさんありますから。
ところで、石灰岩というのは、一般に海の底だった場所にできるものと言われていますね。そう、実を言うとオーストリアって、かつては海の底だったんですよ。その証拠に、ザルツブルク州の南部などでは、よく数億年前の海の生物の化石が見つかっています。ここが陸になったのは、今から約1億5,000万年前〜7,000万円前に、アフリカ大陸が北上してきたときです。ヨーロッパとの間に1,000kmもあった海が100kmに縮まるほどの勢いでアフリカプレートが迫り、そのパワーで欧州側の海底が押し上げられ、4,000m級のアルプス山脈はできるわ、ザルツブルクあたりは盆地になるわということに至ったわけです。
さて、これほど派手に地の底が動いたオーストリアですから、イタリアほどではないにせよ、今でもそれなりに地震というものが起こります(現在の日々の地震の報告はこちらで見られます)。これ、日本ではあまり知られてないと思いますが。そこで記録に残るオーストリアの大型地震を調べてみたところ、結果は下の表の通りとなりました。日本に比べたら地震の規模は格段に小さいし、頻度も大変少ないですから、それほど心配する必要はないと思いますが。
■オーストリアの大型地震年表
年月日 |
震源地 |
州名 |
マグニチュード |
480年 |
トゥルン郊外 |
ニーダーエスタライヒ州 |
?? |
1201/05/04 |
ムーラウ |
シュタイアーマルク州 |
6.0 |
1267/05/08 |
キントベルク |
シュタイアーマルク州 |
5.5 |
1348/01/25 |
フィラッハ |
ケルンテン州 |
6.5 |
1468/01/02 |
--- |
ニーダーエスタライヒ州 |
5.2 |
1572/01/04 |
インスブルック |
チロル州 |
5.3 |
1590/09/15 |
ノイレングバッハ |
ニーダーエスタライヒ州 |
6.0 |
1670/07/17 |
ハル イン チロル |
チロル州 |
5.3 |
1689/12/22 |
インスブルック |
チロル州 |
5.3 |
1690/12/04 |
フィラッハ |
ケルンテン州 |
6.2 |
1768/02/27 |
バート フィッシャウ |
ニーダーエスタライヒ州 |
5.5 |
1794/02/06 |
レオーベン |
シュタイアーマルク州 |
5.3 |
1837/03/14 |
ミュルツツーシュラーク |
シュタイアーマルク州 |
5.3 |
1876/07/17 |
シャイブス |
ニーダーエスタライヒ州 |
5.1 |
1885/05/01 |
キントベルク |
シュタイアーマルク州 |
5.4 |
1886/11/28 |
ナッサーライト |
チロル州 |
5.2 |
1910/07/13 |
ナッサーライト |
チロル州 |
4.8 |
1916/05/01 |
ユーデンブルク |
シュタイアーマルク州 |
4.7 |
1927/10/08 |
ヴァルトベルク |
シュターアーマルク州 |
5.1 |
1930/10/08 |
ナムロース |
チロル州 |
5.3 |
1936/10/03 |
オドバッハ |
シュタイアーマルク州 |
5.0 |
1938/11/08 |
エーベライヒスドルフ |
ニーダーエスタライヒ州 |
5.0 |
1939/09/18 |
プフベルク・アム・シュネーベルク |
ニーダーエスタライヒ州 |
5.0 |
1972/04/16 |
ゼーベシュタイン−ピッテン |
ニーダーエスタライヒ州 |
5.3 |
上記のリストの中で、480年の地震のあと700年以上もブランクができてますが、その前半(955年まで)はフン族だのなんだのに土地を荒らされてロクに記録をとる気力も余裕もなかったのでしょう。その後半(955年〜1200年)は単なる怠慢か地震そのものがなかったせいだと思われます。また、各地震の具体的な震度は分からないのですが、資料の記述から察して、大体震度4以上を大型地震とみなしているようです。
これまでの地震で最も大きかったのは1348年にオーストリア南部のイタリアの国境に近いケルンテン州にあるフィラッハで発生した地震(M6.5)で、このときは町がほぼ壊滅するほどの被害を受けたとされています。それと、大きな都市のあたりはどうかというと、グラーツ、リンツ、ザルツブルクでは全然大きな地震が起こっていませんが、ウィーンをかする大型地震はいくつか起きてあり、インスブルックに至っては直撃もありました。ハプスブルク家のみなさんはさほど地震のことは気にしていなかったのでしょうか?
ところで、20世紀に大地震が発生した年だけを見ると、なんだかオーストリアに不幸が訪れた年が多いですね。1916年といえば第1次世界大戦で負ける直前、1927年と1930年はクレディットアンシュタルト銀行の倒産と世界恐慌の前後、1938年はドイツに併合された頃、そして1972年は石油ショックの直前です。しかし、ここ30年は大した地震がないので、オーストリアの社会はそれなりにうまくやってゆくことでしょう。
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