オーストリア散策エピソードNo.001-050 > No.008
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愛しのアウグスティンは不死身だった
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O du lieber Augustin愛しのアウグスティン

O, du lieber Augustin,
Augustin, Augustin,
O, du lieber Augustin,
Alles ist hin!

Geld ist hin, Madl ist hin,
Alles ist hin, Augustin!
O, du lieber Augustin,
Alles ist hin!

おお、愛しのアウグスティン、
アウグスティン、アウグスティン
おお、愛しのアウグスティン、
すべては去った!

お金は消え、恋人は消え、
何もない、アウグスティン
おお、愛しのアウグスティン、
すべては去った!


アウグスティン
アウグスティン

上の歌は、ウィーンの民謡、「愛しのアウグスティン」の一節 (試聴はこちら) です。日本では「踊りましょうよ、ランランラン、ランランラン」というノー天気な歌詞になって、小学校の音楽の教科書などに載っていました。

この原詩にあるアウグスティンという男ですが、どうやら実在の人物がモデルとなっていたようです。それは、ペストが大流行した17世紀の後半、ウィーンにいた「リーデルリヒの兄貴」と呼ばれる街楽師です。この男、バグパイプを抱えて町外れを歩き回り、皇帝や役人をおちょくる楽しい風刺歌で、人々から人気があったとか。そしていつの間にか、「愛しのアウグスティン」という名で人々から親しまれるようになりました。

さて、このアウグスティンは、当時人々が恐れていたペストをちっとも怖がらず、「皇帝だけじゃなく、死神だってこの俺を捕まえるなんて無理なこった」と豪語していました。すると、このことばに死神が怒ったのか、アウグスティンが心から愛する恋人がペストで亡くなってしまいました。

皇帝や死神には平気なアウグスティンでしたが、恋人がいなくなった悲しみには耐えられませんでした。彼の歌からはすべての笑いが消えてしまいます。そして彼はその苦痛を酒で忘れようとし、大いに酔っ払って路上に寝込んでしまいました。これが、当時のペストに倒れて路上で死んだものと間違えられ、アウグスティンはもろもろの死体と共に車で運ばれて、大きな穴の中に投げ込まれます。

そして翌朝。酔いと眠りから覚めて死体の山の中でごそごそ動くアウグスティンは、死体運びの男の目にとまってそこから引き出されました。ヤケで飲んだアルコールの殺菌作用で、ペストには全然感染しなかったようです。亡くなった恋人を慕う気持ちが、彼の命を守ってくれたのですね。この日以来、アウグスティンは再び元気を取り戻して、また以前のようにバグパイプを吹き、歌を歌いはじめました。

この逸話をもとに生まれたのが、ウィーン民謡「愛しのアウグスティン」です。この曲、ウィーン風のヴァイオリン(シュランメルン楽団の演奏など)で聴くと、どこか甘く物悲しい調べをしています。人生には無常もあるけれど、どんなときでも少しは喜びや希望の余地だってあるとでも言っているかのように。

なお、アウグスティンのエピソードは、その後ウィーンの町が不死身であること(ペストだけじゃなく、オスマントルコの包囲など、いろいろありましたから)のシンボルにもなりました。そして1887年にはカール劇場の作曲家兼指揮者だったヨハン ブランドルが、オペレッタ「愛しのアウグスティン」を書きます。また20世紀には、彼の名を冠したキャバレーと文芸雑誌もできました。



愛しのアウグスティンの歌の続き

Rock ist weg, Stock ist weg,
Augustin liegt im Dreck.
O, du lieber Augustin,
Alles ist hin!

Und selbst das reiche Wien,
Hin ist's wie Augustin;
Weint mit mir im gleichen Sinn,
Alles ist hin!

Jeder Tag war ein Fest,
Jetzt haben wir die Pest!
Nur ein groses Leichenfest,
Das ist der Rest.

Augustin, Augustin,
Leg'nur ins Grab dich hin!
O, du lieber Augustin,
Alles ist hin!

上着はない、ステッキもない、
ゴミ溜めに横たわるアウグスティン
おお愛しのアウグスティン
すべては去った

豊かなウィーンでさえ、
アウグスティンのような身の上
私と泣く、同じワケで
すべてを失って

毎日がお祭りだった、
今はペストだとさ!
大きな墓石の祭りだよ、
残ったものは

アウグスティン、アウグスティン、
墓場に寝そべる
おお、愛しのアウグスティン、
すべては去った!



今回の「愛しのアウグスティン」のmidiファイルは開絵在明日さんのさんのHPの「世界民謡アルバム」からいただきました。このサイト、ほかにもステキな曲がたくさんありますよ。


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