ド・リーニュ侯爵の「会議は踊る」と聞くと、私はついつい中島みゆきさんの「回る回る〜よ、時代は回る〜」という歌を思い出します。空回りの舞台裏にトホホな出来事が満載の「ウィーン会議」では、「そんな時代もあったねと、いつか話せる日がくるわ」という感じで秘密のスパイ活動がのちの歴史化家によって次々に暴露されていますし、「あんな時代もあったねと、いつか笑って話せるわ」という感じで、各国の王侯貴族の無作法やマヌケぶりが笑いの種にされています。この欧州史上最大級の政治的ジョークショーが我がオーストリアで行われていたとは、実に喜ばしい限りですね。
とはいえ、この本は別に「お笑い」を目的にして書かれたわけではありません。それどころか、とてもマジメな歴史書です。でも、仏タレイランの極悪外交とか、民衆王・ヨーゼフ2世(ウィーン会議のちょっと前の人物ですが)が実は「秘密警察大好き活動」に励んでいたとかいった史実には、やっぱりどうしても笑いがこみ上げてきます。そして、どんなにマジメに描写しても笑えるとは、まさに「ウィーン会議、恐るべし」ですね。
もっとも、表紙に人気のドリーニュ侯爵や辣腕のメッテルニヒじゃなく、無能だったフランツ1世とマリー・ルーズを載せているところを見ると、筆者もウィーン会議のスーダラぶりを心からアピールしたかったのかも。もしこの著者が1848年のウィーン革命の本でも書いて、その表紙にメッテルニヒ(革命のドサクサでゾフィー大公女一派の陰謀により失脚、亡命)の肖像だけが出ていたら、その疑いは確信になりますけど。
ウィーン会議の全貌を読み知りながら、時々思わずニコッとできるこの本は、オーストリア好きなら是非一度は読んでおきたい贅沢な一冊だと思います。そして、この本を読んで何回笑えるかで、その読者の「オーストリア史熟練度」も測れるのではないかと、個人的には思っています。
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