オーストリア散策書棚 > No.18
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ウィーンペスト年代記
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ウィーン ペスト年代記

出版元 白水社 初版 1997年6月
著者 ヒルデ シュメルツァー 体裁 B5版
訳者 進藤美智 ページ数 約240ページ


目次

黒死病 p.7 / ウィーンの町 p.13 / 下水溝は天国までにおった p.26 / 外科医と医者 p.34 / 贖罪者たちは鞭打つ p.51/ 井戸への毒物投入とユダヤ人殺害 p.59/ 無節操で破廉恥な国民 p.66 / ペスト鑑定書と伝染病条例−近代化の始まり p.73 / 1679年のウィーン p.87 / 良心なき浮浪者たち p.95 / 混沌 p.108 / 愛すべきアウグスティンの伝説 p.120 / 嘴をもった医者と「血液の中のペスト虫」 p.130 / 人為的ペスト作り p.144 / 毒と解毒 p.149 / カミレル水を4ロート p.156 / 護符と宝石 p.162 / 死の控えの間 p.165 / バロック官僚主義と浄化儀式 p.171 / 常設ペスト遮断線 p.178 / マギスター・サニタス p.184 / ペスト聖人とペスト守護聖人 p.196 / バロック的祝祭 p.203 / 1713年最後のペスト p.208 / 1898年の実験室ペスト p.217



ひとこと


これは、聖職者や年代記作家の証言を元に、数度のペストの猛威に対するウィーンの人々の反応を克明に描写した本です。

ヨーロッパを初めて襲ったペストは、6世紀に起こった「ユスティアヌスのペスト」だったといわれています。しかし、ウィーンの人々に最も恐怖を与えたのは、1348年〜1350年と1679年のペストでしょう。1348年といえば、今のオーストリアに、ヨーロッパ史上最大級と言われる地震が起こった年でもあります。一方、1679年といえばオスマントルコによる第2次ウィーン包囲のわずか4年前でした。要するに、どちらも泣きっ面に蜂という状態です。しかもこれらの災いの直前には「悔い改めないと神の怒りがある」という予言が声高に言われており、これが恐怖の火に油を注ぎます。こうして鞭打ち修行団だの変な医者は出るわ、ユダヤ人犯人説は出るわという事態になってしまいました。

しかし、ペストの災禍は人々に混乱を与えただけではありません。身分の高い者も低い者も、そして富める者も貧しき者も死の前では等しい存在だという事実は、人々の人生観にある種の悟りをも与えたことでしょう。またその一方で、いずれのペストも結局去っていったことから、人々の間には自分たちの町と文化が不死身だとする自信も生まれています。こういうところはウィーンらしいですね。



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